この記事ではPMBOKの知識エリアの一つである「コストマネジメント」について解説をします。

どんなプロジェクトにも最終目標の一つとしてコストの管理というものがあると思います。PMBOKではコストマネジメントという知識エリアにより、適切なコスト管理方法を定義しています。日本でもプロジェクト目標を語る際によく使われるQCDの中にもコストが含まれています。

ビジネスとしてプロジェクト運営をする以上はコスト管理には敏感でなければなりません。どんなに良いシステムを開発したとしても、赤字になってしまってはプロジェクトとしては失敗とみなされます。コストマネジメントを体系的に身に付け、適切な管理を実施できる様にしましょう。

ここからPMBOKのコストマネジメントについて具体的に解説をしていきます。

コストマネジメントとは

予め決められた予算内でプロジェクトを完了まで持っていく事が、プロジェクト目標達成には欠かせません。この「予算内で最適なプロジェクト運営を行う事」がコストマネジメントとも言えます。

単に、コストをかけなければ良いという訳ではありません。予算中で他の(コスト以外の)目標もしっかり達成できる様にするためには、どの様にお金を使うべきか?も検討する必要があります。単なるケチな管理では最適なコスト管理とは言わない訳ですね。

また、コストというのは一旦超過をしてしまうと、後から取り戻すのはほぼ無理と言って良いです。コスト超過を発生させないために、常にプロジェクトの状況を隅々まで把握しておく必要があります。

ここからコストマネジメントとして行うべき具体的プロセスについて解説します。

コストマネジメントの計画

実施プロセス:計画プロセス

アウトプット:コストマネジメントの計画書

コストマネジメントをするための計画立てを行います。どの様な考えの元で、どの様にマネジメントするべきかをしっかりと定義しておかなければなりません。

まずは事前に作成しているプロジェクト計画書等の前提資料を確認すると共にステークホルダーとの打ち合わせやヒアリングを行います。その上で、コストマネジメントの具体的な方法を考え、コストマネジメント計画書を作成します。
※コストマネジメント計画書はプロジェクト計画書の補助資料の一つとして追加作成します。

コストの見積もり

実施プロセス:計画プロセス

アウトプット:コストの見積もり、見積もり根拠

コストマネジメントの計画を立てたら実際に見積もりを行います。既に詳細化されたアクティビティと必要リソース(資源)に対して、定量的にコストの見積もりを行う事が肝心です。

そのため、コストの見積もりを行うためには、スコープのベースラインやスケジュール、アクティビティの定義、資源の計画等の作業がしっかりと完了している事が必須条件となります。

必要な情報が揃っていない状態で見積もりを行っても机上の空論となってしまいますので、まず最低限必要な情報を揃えた上で見積もりを行いましょう。そして、見積もり精度を高めるための情報が集まり次第、見積もりの見直しを行いましょう。

見積もり結果はステークホルダー等が参照する機会も多いため、見積もり根拠を明確にしてドキュメント化しておく事が必要になります。

予算の設定

実施プロセス:計画プロセス

アウトプット:コスト・ベースライン

コストの見積もりの結果とスケジュールとを基にしてコスト・ベースライン(もしくはコスト・パフォーマンス・ベースラインとも言われる)を作成します。

コスト・ベースラインはスケジュール上の期間毎に予算を振り分け、必要費用・支出等を配分して明示します。

コストのコントロール

実施プロセス:監視・コントロールプロセス

計画時に作成したコスト・ベースラインと実績結果を比較して、予定通りの費用となっていない場合は、原因分析を行って是正します。

また、そもそもの予算設定に誤りがある場合には、予算追加や規模の縮小等の処置を取らなければならない事もあります。早めのかじ取りが重要になります。

コストマネジメントの活用

コストマネジメントのプロセスについては上述の通りとなりますが、コストマネジメントを行う上で必要となるツールや考え方等々についてここで説明します。

見積もり技法

コストの見積もりには様々な技法があります。プロジェクトやシステムの特徴に合わせて、必要な見積もり技法を採用する様にしましょう。

ここでは代表的な見積もり技法について紹介をします。

生産基準値法(標準値法)

最も基本的な見積もり技法で、開発規模(ドキュメントのページ数、プログラムのStep数等)と、標準生産性(難易度等で分ける)を基にして見積もりを行う技法になります。難易度によって工数に重み付けを行い、開発規模と掛け合わせて工数算出を行う方法が一般的です。

多くのプロジェクトではこの見積もり技法を基にして(独自の改変もあり)、見積もりを行っています。

ファンクションポイント法

システムの機能を基準にした見積もり技法で、機能(外部仕様)と複雑さを基にして開発規模の算出を行います。ちなみに、外部仕様は「外部入力・外部出力・内部論理ファイル・外部インタフェースファイル、外部照会」の5つに分けられ、それぞれのファンクション数を算出します。※情報処理試験等でよく問われるポイントでもあります。

早い段階からの見積もりが可能というメリットがあるため、プロジェクト初期の見積もり技法として採用される事があります。

ファンクションポイント法の詳細についてはこちらのサイトが参考になります。

「https://www.itmedia.co.jp/im/articles/0504/27/news126.html」

コスト管理技法

ここではコスト管理技法として有名なEVMについて照会します。PMPやプロマネ試験等でもよく問われるポイントであり、扱い方を身に付けておくと実業務の中でも非常に役に立ちます。特にコスト管理の根拠として説得力が出ます。

EVM(Earned Value Management)

EVMは進捗管理の手法の一つで、進捗と併せてコスト管理も分かりやすく行う事ができます。例えば、単純に進捗が進んでいたとしても、想定以上の費用がかかってしまっている場合、コスト超過に繋がってしまいます。EVMを活用する事によって、進捗状況と併せてコストの消費が最適であるかどうかを確認する事が可能になります。

EVMを語る上での基本要素が3つあります。

  • PV(Planned Value:計画価値)・・・計画段階の期間毎の予算
  • AC(Actual Cost:実コスト)・・・期間毎にかかったコスト
  • EV(Earned Value:達成価値)・・・達成した機能数と計画価値を乗じて算出する

この3つの基本要素を使ってEVMによるコスト管理を行う事になります。

PV、AC、EVの値を時間軸(x軸)、コスト(y軸)でグラフ化すると、現時点の計画に対してコストが超過しているかどうかが一目瞭然となります。

EVMの詳細や計算方法等については以下のサイトが参考になります。

「https://www.innovationmanagement.co.jp/column/no17/」

基本要素を元にした分析

EVMで管理を行う際にはPV、AC、EVの他に以下の値の算出も必要になります。

  • CV(コスト差異:Cost Variance)・・・EVとACの差異(EV-AC)
  • SV(スケジュール差異:Schedule Vriance)・・・EVとPVの差異(EV-PV)
  • SPI(スケジュール効率指数:Schedule Performance Index)・・・PVに対するEVの割合(EV÷PV)
  • CPI(コスト効率指数:Cost Performance Index)・・・ACに対するEVの割合(EV÷AC)

これらの値を算出する事で、EVMによる現在の進捗状況・コスト消費率等が分かる様になります。

また、例えばCV、SVが正の値である場合は、計画の範囲内でプロジェクトが進んでいる事が分かります。逆にCVが負の値の場合はコスト超過、SVが負の値の場合は、スケジュール上の遅れが発生している事が分かります。

資格試験でもよく問われる

EVMに関する公式はPMPやプロジェクトマネージャ試験等でもよく問われるポイントになるので、しっかりと覚えておきましょう。
※かつてプロジェクトマネージャ試験には問題文にCV、SV、SPI、CPI等の計算式も載っていましたが、最近は載っていません。逆にこの式を覚えていると、それだけで解ける問題もあります。

また、EVMによる表が明示され、その内容を元にして現在のプロジェクトの状況を分析するという問題もよく出題されます。

例えば、

問題:EVM管理の結果から分かる事は何か?
※この時、EVMの表を見るとCVは0だが、SVが負の値となっている

解答:コスト超過はしていないが、スケジュール上の遅れは発生している。

といった問題はよく出題されます。

さらに、ここからどの様な対策を取るべきか?といった問題も結構出題されます。コストの超過や、スケジュールの遅延となる具体的な原因を分析して、その原因を取り除くための対策の立て方等まで問われます。業務の中で、この様な経験をされている場合は、プロマネ試験の午後Ⅱ問題(論述)で、EVMに触れる様な問題が出題された時に、強みとなるかもしれません。

最近はSV、CV、SPI、CPIの値を素早く計算しなければ解けない問題も増えているので、しっかりと覚えておきましょう。

まとめ

今回はコストマネジメントについて解説をしました。

コストマネジメントのプロセスは、プロジェクトマネージャ以外のエンジニアも身に付けておくと、実業務の中で非常に役に立ちます。実際に見積もり等の作業は多くのエンジニアが行う作業でもありますので。それに、コスト管理がしっかりできると、現在のプロジェクトのコストの消費状況が妥当であるかがよく分かり、プロジェクト成否に関わる助言等も行う事ができる様になります。

また、PMPやプロジェクトマネージャ試験においても定期的に出題される問題(特にEVM)でもあるので、試験を受講予定であれば知識としても身に付けておかなければならない内容になります。

コストマネジメントはプロジェクトの成否を握る非常に重要な知識になりますので、しっかりと理解して、業務の中でも扱える様にしましょう。